2017年9月にリリースされて以来、全世界で話題となったビジュアルノベル『Doki Doki Literature Club!』(邦題:ドキドキ文芸部!)。
同作にいくつかの追加要素を加え、PCだけでなく主要なゲーム機にも対応した『Doki Doki Literature Club Plus!』(同:ドキドキ文芸部プラス!)が、去る6月30日に発売された。
無印『DDLC』にすっかり夢中となっていた俺は『DDLCプラス』を早速購入し、一通りプレイしたので久しぶりにブログを書くことにしたのだが、『DDLCプラス』の日本語訳について色々と言いたいことがあったので、内容に関することとは別に記事を書くことにした。
本記事の内容は、投稿時点のものである。
また本記事には本作のネタバレや、コンテンツレーティングに関わる要素は含まれていない。
DDLCの翻訳
無印『DDLC』は全編が英語のみであった。
同作が世界中で話題となるにつれ、プレイ体験をより広めたいと願うファンの有志が独自の翻訳を製作し、非公式のmod(ゲームの改造データ)として配布したことで、日本語をはじめ、世界の多くの言語でプレイすることが可能となった。
ちなみに俺がプレイし始めた当時はまだ非公式日本語訳もなく、そもそも日本での知名度も日本語情報もほとんどない頃だったので、辞書を片手にかなり長い時間をかけてプレイしていたのを思い出す。
『DDLCプラス』ではリリース当初から正式に、原文の英語および翻訳の日本語を含む12の言語が含まれており、言語は任意に切り替え可能となった。
「日本語への正式対応」ということで、日本のプレイヤーにとってもプレイしやすくなったといえる。
ただ、(主要なヨーロッパ言語はそうでないかもしれないが、少なくとも)アジア言語への翻訳は、有志による非公式翻訳modをベースとしているようである。
日本向けにローカライズされていない洋ゲーを、有志が作ったパッチを使って日本語化してプレイしたことがある人にはわかるだろうが、そのような翻訳は便宜上提供されているのであって、翻訳の質は担保されていない。
それもアクションゲームやシミュレーションゲームならば許容できるだろうが、本作のように文章を読んで解釈して理解することがプレイ体験の中心となるビジュアルノベルにおいて、翻訳とは単に意味が通るようにする以上の意味をもつ。
本作の翻訳の品質は、今後のアップデートで改善される可能性はあるものの、現状では「日本語でも意味がわかる」という水準にとどまっている。
翻訳とは本来、両方の言語に精通したプロの翻訳家が業として行うものだ。
現在の水準で「正式に日本語に対応した」と自信を持って言えるだろうか……
翻訳のミス
非公式日本語訳の品質に文句を言っているわけではない。
これは有志が無償かつ善意で製作したものだし、実は俺もごく一部であるが関わっているし、文句を言う立場にない。
一番の問題は、日本語での表記の一部が明らかにおかしいことである。
というのも、実は非公式日本語訳は現在ではそれほど質が悪くなく、明らかな誤りはもはや存在していない(はず……)。
ところが、非公式日本語訳の開発者から翻訳データを受け取ったはずの本作の開発者が、翻訳をゲーム内に反映させる際、何かの手違いで、訳文がでたらめになってしまっている箇所が数十、あるいはそれ以上ある。
どうしてこうなった……
訳文が明らかにおかしいのが、原文が1、2語程度の短いセリフに多いという点に着目し、俺が独自に調査したところによると、どうやら同一のセリフには同じ訳文を当てるということが行われているようなのだ。
まるで原文データを「grep」して一括置換しているかのように……
そんなのおかしいに決まってるだろ……英語では同じ「I...」でも、日本語では主人公(男)が言うのとヒロイン(女)が言うのとでは違うに決まっているのに、全部「アタシは……」になってるなんて!
笑える話なのだが、上記の例は実際に作中で8回以上登場する実例なのだ。
主人公「アタシは……」 ←オネェかよ。
俺の調査では他にも、登場数が多いものでは「Let's see...」「Ah...」「A-Ah...」「I mean...」「Well...」「Yeah!」「Yeah.」「Yeah...」「Ahaha...」「Of course.」などで、“grep翻訳”らしきことが行われていた。
開発者はいったい何を考えているのやら……
英語話者の中には、英語から日本語への翻訳は機械翻訳で十分、のように翻訳を甘く見ている人が少なくないと常々感じている。
Google Playなどで外国の出品者による機械翻訳丸出しの説明文を見ればよくわかるだろう。
実際に英語とフランス語やドイツ語の間で機械翻訳を試してみると、驚くほど精度が高いのだが、同じような感覚で外国語版Wikipediaの記事を機械翻訳して日本語版に投稿する、不届きな外国人は後を絶たない。日本人にもいるが。
本作の翻訳担当者のように、原文が同じなら訳文も同じだろうと考える、いい加減な開発者がいても正直驚きはない。
しかし、日本語というのは非常に難しい言語なのだ。
こんな翻訳の状況で、日本の初見プレイヤーに本作を薦められるだろうか。
無印『DDLC』をプレイ済みの人なら翻訳がおかしいのは「手違い」だと気付けるだろうが……
「アジア版」発売予定!
翻訳に心配のある方、安心してほしい。
現在、『DDLCプラス』の正式なローカライズである「アジア版」が開発中で、Switch、PS5、PS4向けに10月7日に発売予定とのこと。
原作がSteamでリリースされてからほぼ4年後だね!
ダウンロード版だけでなく、なんとパッケージ版もある。パッケージ版は付録付き!
ローカライズを手掛けるのは、インディーゲームの家庭用ゲーム機への移植、翻訳および発売を手掛けているブランド「PLAYISM」。
無印『DDLC』を未プレイの方は『DDLCプラス』の「アジア版」の発売を待って購入することをおすすめしたい。
追加ストーリーの翻訳?
非公式日本語訳は無印『DDLC』のmodだったから、『DDLCプラス』での追加コンテンツ(サイドストーリーなど)の翻訳はもちろん含まれていない。
ということは……追加コンテンツの翻訳は誰がやったのか?
『DDLCプラス』のスタッフロールの翻訳スタッフの中に日本人らしき名前が見られるが、まさかPLAYISMの方々なのか?
その真偽のほどは不明だが、サイドストーリーに関しては、翻訳の質はかなり高いと思う。
なんというか、「翻訳臭さ」が少ないように感じる。
翻訳臭さというのは、日本語を読んで、元は英語だったのがわかるような文章の癖のことだ。
例えば、朝に友人と会った時の挨拶が「いい朝だね」とか「調子はどう?」とかだったら、きっとそれは翻訳なんだろうと気付くわけだ。
しかし、サイドストーリーの翻訳は本編と比べると明らかに、日本語として自然な言い回しになっている。
残念ながら「grep翻訳」はサイドストーリーのほうにも見受けられるが……
アジア版の翻訳も頑張ってください!(?)
翻訳するということ
とはいえ、翻訳で原文の良さを完全に理解できるわけではないという大前提は、誰もが心に留めておくべきだ。
原文を読んだときにこそ、外国の文学を最も理解でき、そして最も楽しめるというのは間違いない。
とりわけ、本作にとって重要な「詩」など、「正確に」翻訳できるわけがない。
詩というのは、単語が持つ含意や発音、リズム、文字数まで考えられたものであり、どんな日本語に置き換えてもそれらは再現しきれない。
無印『DDLC』をプレイした某有名VTuberが本作の詩を「微妙」と言っているのを見て落ち込んだのだが、それはあなたが非公式日本語訳を読んだからだ!
時々、DDLCに限らず、日本語訳はあくまで「翻訳」であり、「原文」は別にある、ということを忘れている人がいるように思えてならない。
ということで、本作の「詩」はあえて翻訳しないか、翻訳するにしても参考訳だとわかるように原文とともに表示するべきだと思うのだが、どうだろうか。
終わりに
そうはいっても、海外のゲームを誰もが原語でプレイできるわけではない。
俺もDDLCをたまたま見つけた時、まだ日本語訳がなかったから英語のまま自力でプレイしようと思っただけで、今後別のゲームで同じことをやれと言われても正直あんまりやる気は起きないし。
ただ、翻訳はあくまで翻訳であるということを忘れてはならない。
今は『DDLCプラス』の日本語訳が早急に改善されること、そして「アジア版」のローカライズが秀逸なものとなることを祈る。
……ところで、アジア版がリリースされたら、通常版に含まれる日本語訳もそれに合わせてアップデートで改善されるんですかね?
詩の翻訳ですが、これはもう思い切って別のものに変えてしまおうくらいの気概がないと某YouTuberさんがおっしゃる「微妙」の域を出ないと思います。
それこそ郷ひろみのアーチーチーくらいぶっ飛んで初めて我々日本語話者はやっと詩として良いものと感じるのですから(笑)
ただ、本作における詩の位置、役割を考えると、「小さな部活の部員が書いた」さらに言えば「ゲーム上のデータに過ぎない」「伏線、予兆、隠された闇」などの要素があると思います。
よって翻訳の方向性としては、詩としての完成度を高めるというよりは、やや機械的で粗雑かつ子供の絵のような可愛らしさと不気味さを併せ持っていた方が本作の雰囲気に合うのではないでしょうか?
コメントありがとう。
歌詞の翻訳って絶対難しいよね。DDLC主題歌の『Your Reality』の日本語訳詞を誰かが作ってた気がする(読んだことはない)けど、俺も訳詞を作ろうと思ってたことがあるんだよな。1番だけ何とか形になった気がするけど、とてもじゃないが公開する気は起きないな。
郷ひろみの『GOLDFINGER'99』のアレはすごい発想力だけど、ああいうのは“訳詞”ではないな。曲だけ借りた別物。まぁ、詩の類の翻訳は時にあれくらいぶっ飛んでこそ評価されるってのは同意。
ディ○ニー映画の歌の日本語版はすごいよな。「ありの〜ままの〜」なんて、俺なら一生かかっても思い付かない自信があるわ。
ただ、本作の詩について、「ゲーム上のデータに過ぎない」「伏線、予兆、隠された闇」などの要素があるというのは、あくまでメタ視点からのものであって、サルバト氏によるAMAによれば本作の詩は「本作のような短い作品において、プレイヤーを効果的に惹きつけるもの」という意図(あるいは結果?)があったらしいから、これはヒロインたちの「リアルな」「生きた」「感情」を表現しているはずだし、翻訳はそれを反映しているべきだと俺は思う。
サルバト氏は以前から詩を書く趣味があったらしいが、本作に登場する詩は長い時間をかけて書き溜めたものらしいし、作中で詩は基本的にモニカによる介入のない1週目に書かれているから、やはり翻訳は魅力的であるべきだと思う。
……いや、言うは易しだけどね?