『Doki Doki Literature Club!』(DDLC)に非公式日本語化modがリリースされたことで、本作がより日本でも広まり、人気も高まりつつある。

俺は日本語化modどころか日本語の情報すらほとんどない頃に始めたので、プレイするのも情報収集するのも大変だったが、今ここまで広がりを見せ、俺としても嬉しい限りだ。

しかし、翻訳によって元の英語のキーワード、世界的にミームとなった言葉が日本語版には含まれないため、日本人プレイヤーの間で通じなくなってしまうのではないか、と俺は心配している。

※ミーム:模倣などによって遺伝子のように伝達される文化のこと。

そこで今回は、世界中のプレイヤーの間で語り継がれる本作のキーワードを紹介したい。

なお、この記事には本作の核心に触れるネタバレしか含まれないので、プレイ前には絶対に見ないように。見ても意味がわからないと思うけど。

「ドキドキ文芸部!」?

いきなり余談だが、ついに『ドキドキ文芸部!』が公式の日本語版タイトルになった。

「日本語版」のTwitter公式アカウントもできたし。

つまり、これからは『Doki Doki Literature Club!』という正式タイトルや「DDLC」という略称さえ日本人には通じなくなってしまってもおかしくない……

それはさすがにありえないだろ、と言いたいところだけど、検索でこのブログに来る人の中には「ドキドキリテラシークラブ」なんて謎のワードで検索してる人が本当にいるんだぜ……

【リテラシー】(英) literacy ①読み書きの能力 ②物事を読み解く能力

Literature の仮名表記は一般には“リテラチャー”とされていて、Office IME 2010でもこれで英語に変換される。

【リテラチャー】(英) literature ①文学, 文芸 ②文献

個人的には、発音で近いのは“リタリチャー”だと思う

ちなみにオーストラリア人のフォロワーさんはこう言ってる。

もう無理して Doki Doki Literature Club! なんて言わなくても良くなったんだし、「リテラシー」だけはやめようぜ。

happy thoughts

これはサヨリが1周目の3日目に見せてくれる詩『Bottles』(非公式日本語版:ビン)の一節。

直訳すると「幸せな考え」、非公式日本語版では「シアワセ」と訳されている。

その詩では中盤辺りでこの言葉がリフレインされているが、この時点ではサヨリらしい言葉、で片付く話だ。

この言葉、実は1周目の間にもう一度登場する。

気付いた人もいるだろうが、5日目(週末)に主人公がサヨリに告白するかどうかを選択したタイミングで、DDLCがインストールされたディレクトリに、とある画像ファイルが生成されるのだ。

そのファイル名が「hxppy thxughts.png」、もちろん「happy thoughts」を改変したものである。

で、どんな画像なのかというと……

hxppy thxughts.png
ゲームデータより引用。

笑顔を浮かべる人の顔を描いた子供の落書きのような絵で、全体的に赤いノイズがひどく、目の部分は黒塗りされているが、頭に付けたリボンから、それがサヨリであるのは一目瞭然だろう。

そして首に巻き付く物と、後頭部から上に伸びるロープ。

言うまでもないが、サヨリの自殺を描いたものだ。

つまり、勘のいいプレイヤーなら1周目の結末を待たずしてサヨリの首吊り自殺を知ることになる。

この、本作が「普通の」ギャルゲーからサイコロジカルホラーゲームに変貌する分水嶺となる、衝撃的なシーンを描いた画像のタイトルが、「happy thoughts」だと??

一部の文字が x に置換されていることから「happyでない」という解釈も可能だが、俺の解釈は違う。

happy thoughts には「妙案」という意味もある。

主人公の本心(ナツキやユリと仲良くなりたい)を知り、主人公の幸せを優先するために、深い憂鬱の中で見出した自殺という解決策が、happy thoughts(妙案)ということなのかもしれない。

ちなみにこの画像は、2周目の特定のタイミングでランダムに三つ見られる「特別な詩」のうちの一つ、サヨリの自殺を描いた大きな画像の一部を切り取り、加工を施したものである。

Get out of my head.

%(前半)
前半部分。

1周目の最終日、登校した主人公がモニカから見せられたパンフレットに掲載された、サヨリの詩『%』の一節。

一節というか、前半はすべてこの言葉であるのだが……

意味は「私の頭から出て行け」であり、非公式日本語版の詩も前半はその言葉の繰り返しとなっている(ただし狂気を演出するために平仮名表記)。

また詩の後半も、「Get out of my head before 〜」から始まる四つの行が続く。

※非公式日本語版では「〜まえにわたしのあたまからでていけ」で終わる4行。

そして意味深な最後の2行へと続く。

当然ながら原語版と日本語版では言葉の文字数などが異なるので、この狂気の羅列を読んだ時の印象も変わってくるだろう。

PLAY WITH ME!!!

2周目に最初の二つの詩をナツキ向けに書き、3日目にナツキの詩『T3BlbiBZb3VylFRoaXJkIEV5ZQ==』を見せてもらった後のシーンでのナツキの言葉。

この詩のタイトルおよび本文は「文字化け」ではなく、Base64という一種の暗号であり、画像などのバイナリデータを文字データに変換するのに使われており、このブログでもセクション見出しのアイコン画像なんかに使っている。

それはさておき、ナツキが見せつけてくるこの詩のタイトルを解読すると「Open Your Third Eye」、日本語では「第3の目を開け」となり、非公式日本語版ではこれをBase64で暗号化し直したものになっている(詳しくは後述)。

この詩を見せた後、BGMは歪み、画面は暗くなり、ナツキの両目と口が黒塗りで隠され、主人公を非難し始め、そして最後にこう言う。

PLAY WITH ME!!!」(非公式日本語版:わ た し と あ そ ん で ! ! !

PLAY WITH ME!!!
PLAY WITH ME!!!

その直後の演出も含めて、本作で最も怖いシーンの一つだと思う。

というか、このフレーズ自体、海外のホラー映画のタイトルにありそうな感じだが……

ちなみに、この play with me というフレーズ、実はナツキ/ユリルートのイベントシーンで流れるBGMのタイトルでもある。

そのBGMは2周目のラストシーンの直前、ユリの死体と週末を過ごすシーンでも、1/4倍速で再生される。

ところで、俺が3月に描いたナツキのイラストを、4月1日にエイプリルフール仕様にアレンジしてみたから、よかったら見てくれ。

Just Monika.

2周目の4日目、ルートを問わずナツキの詩、ではなく主人公へのメッセージを見せてもらった後、突然「気が変わった」ナツキが話す言葉。

たった2語で本作を端的に表す言葉として、本作最大のミームとなっている。

just という語の意味は広く、訳すのが難しい場面もあるが、大まかな意味は「それ以上でも以下でもない」という感じである。

つまり Just Monika とは「(ただ)モニカだけ」という意味になる。

ナツキがこの言葉を言ったあと、この言葉は次に「地の文」、次に「選択肢のボタン」(他に選択肢はなく、これを選ぶと進む)、次に「メッセージウィンドウ」(OKボタンを押すと進む)と続けて表示され、最後に「偽の起動時画面」が現れ、「起動時の警告表示」の代わりにこの言葉が表示される。

Just Monika(選択肢)
Just Monika.
Just Monika(メッセージウィンドウ)
Just Monika.

実に5回も念を押されるわけだ。

また、ナツキの直前の二つの台詞から繋がっているとみることもできる。

  • 「If you would just spend more time with Monika, 〜」(非公式日本語版:ただモニカともっと一緒にいれば、〜)
  • Just think of Monika from now on.」(同:これからはモニカのことだけを考えて)

そして、その後の3周目には実際に「Just Monika」状態になるのはご存じの通り。

本作を通して多くのプレイヤーがモニカの虜となり、ファンの間では「Just Monika」が挨拶として使われているらしい。えっ。

非公式日本語版を翻訳するのにあたっては、この有名なフレーズをどう表記するかが議論され、結果的には忠実に翻訳することを重視し、原語のフレーズを捨てて「モニカだけ」と表記されることになった、という経緯がある。

その代償として、非公式日本語版には原語のフレーズが含まれないので、「Just Monika 意味」などといったワードで検索する人が後を絶たないというわけだ。

さぁ、そこのあなた、わかったかな!?

ちなみに3周目の(最終盤を除く)大部分で流れている、環境音のようなBGMのタイトルもこれである。

でも俺はモニカではなくナツキが好きだ。

Just Natsuki.

※この記事では末尾のピリオドを付けて表記しているが、作中では常にピリオド付きで表記されているのでそれに倣ったものであり、ネタとして使うなら別にピリオド無しでいい。というより付けてない人のほうが多いと思う。

その他の英語に関する話

因果応報

1周目の3日目、主人公を引っかけてお菓子を買ってもらおうとしたサヨリが主人公に論破され、撃沈していたところをユリに言われた言葉「retribution」(罰)を、非公式日本語版では「因果応報」と訳している。

その後、サヨリが同じ言葉を言おうとして、「revolution」(革命)と言ってしまったり、「restitution」(補償)と言ってしまったりするのだが、これらをうまく訳すのが至難の業だった。

俺はプレイ当時にまだ非公式日本語版がなかったため、独自に翻訳していたが、結局この辺りはテキトーに訳すほかなかった……

非公式日本語版では、revolution を「百花斉放」、restitution を「陰徳陽報」と訳しており、(百花斉放はともかく)ストーリー上の整合性のある翻訳となっている。

……まったく、こういう翻訳者殺しの言葉遊びはやめてもらいたいものだ(絶望感)。

Mon-ika

1周目の4日目、文化祭の模擬店(?)でイカフライ(非公式日本語版ではイカ焼き)を売っているかとモニカに尋ねたナツキが、モニカの名前に「イカ」が入っているという意味で「Mon-ika」と発言した。

それに対して、モニカは「そのダジャレは翻訳したら通じない」と言うのだが、本作のシナリオが元々日本語で書かれ、英訳されたかのような演出となっている。

このメタ発言に対し、ナツキは言葉を失っているが。

もちろん、本作は英語話者であるアメリカ人のDan Salvato氏が最初から英語で書いたものである。

この言葉遊びは翻訳者殺しではないが、「Mon-ika」自体を翻訳版においてどのように表記するとわかりやすいか、俺は多少悩んだ。

非公式日本語版では「MON-IKA」と、わりとそのままになっている。

文字化け?テキスト

本作に登場する「変なテキスト」には、以下の種類がある。

  • バグテキスト:ラテン文字(いわゆるアルファベット)のうち、基本となる26字以外の文字、つまり記号付きのアルファベットと、いくつかの記号をランダムに並べて生成される。文字はプレイするたびに異なる。
  • Base64テキスト:元となる英文をBase64という方式により暗号化して生成される。英数字と一部の記号が含まれる。元の文より長くなる。文字は毎回同じ。
  • 改変テキスト:普通の英文だが、文字のアウトライン(輪郭)を通常よりも外側に太く描画したものの俗称。上記のバグテキストがこの形式で表示される場合もある。文字自体には「Verily Serif Mono」というフォントが使われている。俺がCSSで再現したもの
  • 狂気のユリテキスト:ユリの最後の詩に使用されているテキスト。他のユリの詩とは別のフォントが特殊な方法で描画されており、読むことすら困難だが、単語の羅列もラテン語など英語以外が含まれ、綴りがおかしかったりと、とにかく意味不明。

これらのうち厳密に「文字化け」なのは、「バグテキスト」において、使用されているフォントに含まれていない文字が四角形の代替表示となっている場合のみであり、他は文字化けではない。

厳密な意味ではともかく、日本語話者から見れば、でたらめな英数字になるBase64テキストも文字化けに見えないわけではないが、非公式日本語版においてはこのBase64テキストにも工夫がされている。

すなわち、原文のBase64テキストを英文に復号し、それを日本語に翻訳してから、Base64で再度暗号化しており、手の込んだ作りとなっている。

まとめ

今回は、DDLCの原語版をプレイしなければわからない用語・ネタなどを紹介した。

もちろんみんなに原語版をプレイしろと言っても無理な話であるが(俺も簡単だったわけではない)、原語のキーワードもちゃんと知ってほしいという思いはある。

公式の日本語版も、早ければ(?)今年にもリリースされるとのことだが、翻訳には限界があり、原語でしか味わえない面白さもある。特に詩の部分。

興味をもったあなたは、ぜひ非公式日本語化modをはずし、ナツキの詩『I'll Be Your Beach』を読んでみてほしい。
いや、他の詩もだけど……これが俺の一番のお気に入りだから。

最後にもう一度言うが、Doki Doki Literature Club! をカタカナで書くなら「ドキドキリテラチャークラブ」だからな!