相変わらずSSの長さってのがわからないLABEだが、また書いてみた。

前作は去年の9月だったというから、ずいぶん久しぶりだな。

SSなんか書いてないでさっさと本編を作れよ! とお思いの皆さん。

作ってるけど、すぐには完成しないから、それまでのつなぎ――というか、ぶっちゃけLABEはどんな文を書くのかというのを見せるため――に、ネタを小出しにしてるのさ。

だから、感想とか指摘をもらえるとうれしいんだけど、まあそもそも読まれるかどうかだよね。

あ、ネタを小出しといっても、本編のネタを切り売りしてるわけじゃなくて、どちらかというと裏設定とか別視点を出してる感じかな。

ちなみに本編の特設ページはこちら → 屋上・彼女

(この特設ページも内容を追加しなきゃな……)

ということで、今回もスタート↓

『ヨークの朝』

気持ちのいい朝の目覚め。

8時20分。きっちりいつも通り。

1月とはいえ外はすっかり明るいし、部屋は終日適温を維持している。

俺はベッドから上体を起こし、伸びをした。

寝る前の「完璧快眠のおまじない」を始めてから、どんなに夜更かしをしても、目覚まし時計すら不要になった。

もちろん、怪しい薬などではない。誰でも簡単に実践できることだ。

――魔法が使えれば。

俺は少しニヤけながら、ベッドに座った姿勢のまま右を向き、右腕を斜め前方に伸ばした。

その手の先にあるシャツを吸い寄せ、その手で掴む。

今度は左腕を斜め右に伸ばした。

その先のハンガーに掛かっているブレザーとスラックスが飛んでくる。

こうやって俺はベッドから離れることなく、すべての着替えを取り寄せることができる。

まさに魔法、選ばれし者にのみ使用を許された、怠惰のツール。

ただし、実際の着替えまですべて魔法で行うのはさすがに面倒なので、俺はベッドから立ち上がる。

* * *

アナログな着替えを済ませ、俺はリビングに移動する。

リビングでは管理人の爺さんが朝食の準備を済ませていた。

「おはよう」

「おはようございます、ヨーク様」

白髪交じりの爺さんがにこやかに挨拶をした。

この家は我が家の別荘。

もともとサウスシティの郊外に住んでいたが、俺が市の中心部にある中校に進学する際、中校に程近いこの一軒家を購入し、別荘として管理人を雇い、俺だけがここに引っ越すことになった。

ほとんどの中校生は、いわゆる寮の一室に暮らしているので、俺はかなり恵まれた環境で育っているのだろう。

俺がこの別荘で管理人の爺さんと一緒に暮らしている生活も、かれこれ4年半になる。

食卓には丁寧に焼き上げられた食パン、チーズのの入ったスクランブルエッグ、ベーコン、そしてみじん切りされた野菜がたっぷり入ったスープが湯気を上げて並んでいた。

毎日きっちり同じ時間に起きてくる俺に合わせて、きっちり同じ時間に朝食を準備するあたり、爺さんは魔法使いでもないのに大したものだった。

* * *

朝食を平らげ、立ち上がると、左手を斜め後ろに向ける。

俺の部屋のドアが開き、通学カバンが飛んできて、するりと肩に引っ掛かる。

「じゃあ、行ってきます」

8時48分。玄関に向かうと、爺さんも見送りに来る。

「行ってらっしゃいませ。今日は早くお帰りください」

「うん」

俺は生返事をして、振り返らずに玄関のドアを開けた。

冬晴れの空、頬を刺す透き通った空気の中、通りには大勢の中校生たちが先を急ぐように登校していた。

「おっ」

家の門の前に、いつもの三人が待っていた。

黒髪の少年カインと、赤髪の双子の姉妹、大きいほうがミラエ、小さいほうがトワエ。みんな幼馴染みだ。

「おはよう」

小さな庭を通り抜け、柵を開けながら挨拶をした。

「おう、ヨーク、今日もジャストだな」

カインが軽く手を上げて応える。そしてすぐにその手をポケットの中に戻す。

「おはよう」

「おはようございますっ!」

無駄に元気な挨拶をするトワエはいいとして、ミラエのテンションが低い気がする。……なんとなくだが。

柵を閉め、俺たち四人は歩きだした。

カインたち三人は魔法使いではないので、テレポート通学はできない。

俺がそれをしないのは、たかが徒歩3分の距離を、利便性よりも友人とのコミュニケーションを重視してのことだ。

「なんだ、今度は言わないのか、『ご主人様』って」

カインがトワエに言った。

「言わないよ、言うわけないじゃん、ヨークになんか」

トワエが慌てて返す。いったいこいつらは何を言っているんだ。

「何の話かは知らないけど、『ヨークになんか』ってのは気に食わねぇな」

「いや、さっきな、俺の部屋に来たとき、トワエが言ったんだよ。『おはようございます、ご主人様!』って」

カインが笑いながら言った。

「は? バカじゃねぇの?」

俺はヘラヘラと笑った。

「そんなの冗談だしっ」

トワエが弁明した。

「冗談でもいいから、俺にも言ってみろよ」

「やーだ!!」

トワエは意地悪な顔をした。

「子供かよ……」

「子供といえば」

トワエはニヤリとした。

「さっきカイン、朝ご飯のマッシュルーム残してたよね! 子供かよ!」

トワエがしたり顔でチクった。この三人は毎朝、寮の食堂で朝食を共にしている。

「好き嫌いに年齢なんてねぇよ」

カインは苦しい言い訳だが、胸を張ってする。

「まあ、カインの好き嫌いが激しいのは今に始まったことじゃないしな」

俺は呆れた表情を作ってみせた。

「それで、ミラエと間接キスを……」

トワエは不満そうに言った。

「間接間接キスだ」

またこの二人は……わけわかんねーな。

さしずめ、そのマッシュルームをミラエが代わりに食べた、といったところだろう。“間接間接”の意味するところは知らないが。

そんな馬鹿げた会話を繰り広げつつ歩いていると、もう中校の校門に差しかかる。

しかしこの間、ミラエは一言も話さなかった。

元々ミラエはおしゃべりではないし、俺たちが話しているのを穏やかに微笑みながら黙って聞いていることが多いのだが、これほど相槌も打たず、愛想笑いもせずに黙っているのは珍しい。

見れば、顔は笑っているものの、その表情はどことなく固かった。

珍しく機嫌が悪いのだろうか。あとで誰かに聞いてみるか。

* * *

校門を抜け、校庭を横切る。

今日も昇降口は混雑していた。

混雑を避けるため、低学年と高学年では登校の時刻が分けられているのだが。

昇降口に並ぶロッカーはクラスごとに分かれている。

俺は10組で、カインとミラエは4組なので、二人とはここで別れる。

一方トワエは11組だから、ロッカーも教室も近くだ。

ロッカーを過ぎてトワエがやってくるのを待ち、声をかけた。

「なあ、トワエ」

「何?」

トワエが立ち止らなかったので、俺はトワエの後ろについて歩いた。

「ミラエって、今日は機嫌が悪かったのか?」

「え、そうだった?」

だめだこいつ……気付いてない……

「いや……違ったならいいんだ」

やっぱりあとでカインに聞くことにしよう。

廊下を歩き、5年6組から15組の教室がある並びにたどり着く。

俺は10組、トワエは11組だ。

10組の教室の前でトワエと別れる。

「じゃあなー」

俺はわざとらしく手を振る。

「じゃ」

ちらりと振り返るトワエはちょっと素っ気ない。

きっと歩き疲れたのだ。

最近は口にも顔にも出さなくなったが、幼い頃から体が弱いトワエは、かつては登校するのも一苦労だった。

やはり、中校に入り多少は体を動かすようになると、変わるのだろうか。

今ではすっかり気だけは強くなって。

そして今日も、トワエが無事に教室に着くのを見届けて、俺は自分の教室へと入っていくのだった。

(Fin.)

おまけ

体験版をプレイした人ならわかるかもだけど、今回のお話は体験版に描かれてる朝のシーンを、ヨークの視点から描いたものだ。

「おはようございます、ご主人様!」とか、言ってたね。

ミラエの機嫌が悪い理由もあっちでは示唆されてたよね。

とはいえ体験版では、カインたちが通学中に、お屋敷(ヨークの別荘)の前に来たところまでしか作ってないけど……

ヨークの立ち絵をまだ描いてないから続きを作れないなんて言えない……

だから今さら、体験版を復習だ! なんて言わないけど。

学校について

ここからは物語の設定について補足したい。

読者は最初に設定なんて読まないから、ちゃんと作中でわかるように作らないといけないんだけど。

あんまりくどくどと説明してたら読みにくいし、バランスが難しいところだ。

いずれにせよ、今回はSSだから、説明は大幅に省いている。

たとえば、今作はなにげに外国が舞台だから、学校制度が日本とはいろいろ違ったりするけど、あんまり説明してない。

主人公たちが通ってる学校は「中等学校」(中校)といい、日本の中学校+高等学校に相当する6年制の中等教育機関だ。

ちなみに初等教育機関は初等学校(初校:6年制)という。

義務教育は中校まで。

年度は9月に始まる(いわゆる秋入学)から、今回のお話の舞台となる1月下旬はまだ学年末じゃない。

あと、学校に上履きはない。

外国風にこだわるなら、「ホームルーム」とか「職員室」もなしにしなきゃいけないけど、その辺りは物語の都合上……

クラスは学年に20あり、成績順に割り振られる。

カインとミラエは4組だから、そこそこ成績がいいわけだ。

ヨークは10組だからあんまり……

トワエは11組だけど、彼女は病弱すぎて初校には満足に通えなかった(しかも勉強嫌い)という設定だから、しかたないね。

今回は登場していない(前回に登場した)レーベは1組の才女なのさ。

トワエについて

そういえば、トワエ(双子の小さいほう)の病弱ぶりをもっと描写すべきだっただろうか。

体験版では触れてたね。

病弱な妹キャラ、しかもロリ体型とかありきたりな設定だけど、言っておくが、トワエは双子のだからな!(よく間違えられるという設定)

おかげ様で、標準体型のミラエとは身長差が19cmだが、双子でこんなに身長差が大きいってのもあり得る話だからね。

そしてトワエは病弱なくせに気だけは強い、でも子供っぽいデレツンという俺得の塊。

読者に媚びたデザインってやつか。そういうポジションな。

「寮」について

ところで、ヨークは「別荘」に住んでいるが、本文中にもあるように、カインたちを始めとするほとんどの生徒たちは「寮」と呼ばれる単身のアパートに住んでいる。

「寮」は実際には寮ではなく、あくまで通称である。この辺りは体験版には書いたっけ。

「寮」は25階建てで、1棟に900部屋ほどあり、主人公たちが住む街にはこんな建物ばかりが並んでいる。

むしろ一戸建ては極めてレアで、そんな家を別荘に持つヨークの一家はかなりの金持ちだろう。

魔法について

そのうえヨークは魔法使い。

魔法使いはこの物語に何人か登場するが、そんな変な要素を入れないで普通の学園モノにしとけよ、という意見は受け付けない。

だって、これ「ファンタジー」ですから……

学園モノ要素はあんまりないかな。

特設ページにはいろいろファンタジーっぽい説明が書いてあるだろう。

まあ、ハイ・ファンタジーでもないし、魔法がそれほど物語の大きなウェイトを占めるわけでも……(みなまでは言わない)

そういえば

どんなお話になるかはまだ発表できてないね。

そりゃ、世に出す前からストーリーのネタバレをするのも変な話だけど、このブログやサイトを読んでくれてるような人は、おそらく俺の創作や制作に感心をもってくれてるだろうから、純粋な読者というよりアドバイザーであってほしいと思ってたり。

つまり、感想ください!

忌憚なき指摘を!

いや、てかもう読んでくれたら何も言わない……